予備校受験のために上京した受験生・孝史は、二月二十六日未明、ホテル火災に見舞われた。
間一髪で、時間旅行の能力を持つ男に救助されたが、そこはなんと昭和十一年。
雪降りしきる帝都・東京では、いままさに二・二六事件が起きようとしていた―。
大胆な着想で挑んだ著者会心の日本SF大賞受賞長篇。
おかしなもので、タイムトラベルなどしたこともないのに、もしそれができるとしたら、きっと歴史は変えられる、と思っていた。
いつの時代の出来事にもそれを決定づけた事件や人物というのがいる。
日本史の試験などで出てくる事柄だ。
だから、それに影響を及ぼすようなことができれば、歴史は変わるんじゃないかと。
そうすれば、たくさんの人がなくなってしまうような事件や事故を防ぐことができるんじゃないか、と思っていた。
しかし、ここに出て来るタイムトラベラー平田は「歴史の細部は変えられても、歴史そのものは変えられない。そんなことをしようとしても、それは所詮”まがいものの神”でしかない」と言う。
最初はそれが理解できなかった。
日本が戦争に突入しない方法、原爆が投下されない方法、または、これほど大きな犠牲をだす前に戦争をやめる方法・・・なにか手だてがあるんじゃないか、そう思いながら読み進めた。
しかし、読んでいくうちに彼の言うことがよくわかった。
私たちは後世の人間として、なにが起きるか知っているから後からあれこれ批評もできるけれど、その時代に生きている人たち全ての考えでも変えない限り、歴史を変更するというのは無理なのだ。
たとえば東條首相を暗殺したとしても、別の東條がでてくる、それだけのことなのだ。
歴史というのは、人間が積み上げていくものだけれど、個々の出来事に多少の変更があっても、それは歴史全体にはたいした影響のないものらしい。
読んでいて、その点は納得ができた。
戦前に戻り、自分の祖父や祖母を戦災から守ろうとすることはできるかもしれない。
だけど、戦争そのものを防ぐことはできない。
だからこそ、今この時代に生きている、ということが大事になってくる。
これからの歴史を決定づけるのは、今を生きている私たちなんだから。
設定がタイムトラベルした先の時代だからジャンルとしてはSFになるんだろうけれど、いやはや、そんなジャンル分けできるような小説じゃない。
いろんな要素を詰め込んだエンターテイメントです。
蒲生邸で働く女中・ふきと、この戦争を生き延びたら浅草で会おうと約束する。
昭和20年に蒲生低付近も大規模な空襲にあうことを知っている孝史にしてみれば、会えない確率の方が高い、切ない約束だっただろう。
まがいものの神でもいい、せめて関わりを持った人たちだけでも幸せになってほしい、という彼の気持ちが痛いほど伝わってきた。
推理小説の要素もありながら、最後はほろりとさせてくれる。
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ラベル:宮部みゆき